1冊の本〜茨木のり子の家


 



ソウルにある日本人が経営される珈琲店を訪れた時のこと。
漆喰の白い大きな壁に真鍮の大きなスプーンがひとつ掛けられ、その受け皿の部分には白い陶磁器…あまりの素敵さに思わず店主にたずねると「茨木のり子さんの家の本のまねっこなんです」と…


あー!そんな本が出版されていたなんて!
ホテルへ行く地下鉄の中で調べてみると2010年に平凡社より出版され、多くの人に読まれていた本でした。
知らずに過ごしたこの9年が残念で残念で…日本に戻り取り寄せ、こんなにも茨木さんの暮らしをオープンにさせたことに驚きました。それもそのはず…幼少期より茨木さんを慕った甥御さんの協力の下に作られ、家が被写体となった1冊の本でした。


 



「現代詩の長女」と呼ばれ、今もなお輝き続け多くのファンを持ち韓国と深いつながりをもった女流詩人・茨木のり子さん。
50歳から韓国語を勉強し、韓国を愛し、孤高の死を遂げた若き詩人・尹東柱を世に送り出した人でもあります。


ご自邸は西日本市の東伏見にありました。1958年32歳から2006年79歳で死去するまでの33年を暮らした2階建ての木造住宅。


 

前面道路に平行でなく東西南北に忠実に建てられ、あえてアプローチはカーブを描きます。生け垣や植栽の緑を愛でながら建物へと誘うように…。
間取りは当時としては珍しく1階に水回りをかため、2階にLDKと寝室と書斎。設計は建築家である従姉妹と共同で考えられたとのことです。


古き良き昭和の香りが残る家。
高価な材料、きらびやかな調度品や電化製品などないつつましい室内には、秘かに細かな計算がされたデザインが見受けられます。
収納棚や昔から使われていたタンスが壁から壁まではもちろん、天袋までつくられすきまなくきっちり造作で収められ、キッチンとダイニングの間には3枚引き戸のハッチが設けられ、来客時にはキッチンの様子を見えなくさせながらも、少し戸を引き料理を出すタイミングを見計らったり…。
また医師でもあるご主人と共同の書斎の天井には1本のカーテンレールがつけられ、臨機応変に分割させ互いに仕事に集中したようです。


木の床に白い壁…
玄関の壁には前出の真鍮の杓文字(しゃもじ)と白磁の香炉が!
これだったのですね!
一番の特等席に鎮座し来客をお出迎え…茨木さんのお気に入りだったのです。他にも三島の酒器や鉄の燭台など…韓国で見つけられた骨董が暮らしに溶けこんでいました。


 



圧巻なのは書棚です。ぶ厚い朝鮮語大辞典、韓国の詩人「金芝河全集」やニュースと韓国語で書かれた大量のスクラップブック、数々の韓国語の参考書。ご主人を亡くした喪失感を埋めるように始めた韓国語の勉強です。
可愛い記事を見つけました。韓国ドラマもよく見ておられ、冬のソナタの切り抜きを集めたヨン様ボックスもあったと…。



 



亡くなられて13年が経った今でも、茨木さんの気配を身近に感じられます。モノクロの写真や古いSONYのトランジスタラジオ、家計簿や黒電話、書斎の椅子には座布団が重ねられなんだかとても親しみを感じます。


そしてご主人が描いた茨木さんの顔のスケッチ、没後発表されたご主人への恋文が収められた「Y」のクラフトボックス…この家は最愛のご主人と濃密な時間を過ごした家でもあります。

詩人茨木のり子の最大・最強の味方であったご主人を亡くし、その時の哀しみは相当なものだったとのちのち書かれています。

「虎のように泣いた」「寂寥だけが道連れ」…

しかしながらこの悲しみを抱えた時間が何作もの素晴らしい詩を生みました。詩を書くことでご主人を感じ対話をしていたと…


2006年、急逝。
第一発見者である甥の宮崎治さんは週末この家に遊びに行くことが大好きだったそうです。手の込んだレシピの料理と珈琲の匂い流れ、世代を超えたとりとめのないおしゃべり…茨木さんにとってもあたたかくかけがえのない時間だったに違いありません。


気もちが滅入った時、ふと手に取ってみたくなる茨木さんの詩集。
常に不安を抱え自信のない私たちは力をもらい、スーッと背筋が伸びるようだと多くの人は語ります。



 



最後にリビングに置かれていた椅子をご紹介します。
ご主人が気に入って購入されたというスウェーデン製イージーチェア。片持ち構造で作られた木と茶革の北欧デザインの1脚です。
アームの黒の塗装は手ずれで剥げシートも色が薄れ皴がより、そこが長年のお気に入りの場所だったことが伺えます。


そう、この椅子こそが名作「倚りかからず」の椅子なのです。



「倚りかからず」※一部抜粋

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない



倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ




稀代の詩人とも呼ばれ数々の名詩を生んだ茨木のり子さんの小さな家。
そこには最愛のご主人と過ごした普通の生活がありました。わたしたちと変わらぬ思い出や喜び、悲しみも…
最後まで強く、群れず、簡潔に生き抜いた詩人・茨木のり子さん。
勝手ながらますます憧れを感じ、より近くに感じることができた1冊の本です。

 
 
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